最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)190号 判決 1969年6月03日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人村田武の上告理由第一点および第二点について。
原判決の適法に確定したところによれば、訴外山田和善は、本件建物につき、上告人のため売買契約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を経由する以前から、本件建物を訴外日本鋼管株式会社に賃貸しており、右仮登記後に、右日本鋼管株式会社に対する賃料債権を被上告人に譲渡して債務者に対し確定日付のあるその旨の通知を了したというのであるが、右賃料債権の譲渡は、仮登記後にされたものであつても、本件建物自体について、仮登記によつて保全されている権利の内容と抵触する処分とはいえず、仮登記に基づく所有権移転の本登記がされることによつて直ちにその効力を否定されるべき中間処分にあたるものと解することはできない。のみならず、賃貸中の建物の所有権を譲り受けた者が賃借人に対して賃貸人の地位の取得を主張し賃貸借契約上の権利を行使するためには、所有権取得についての登記を経ることを必要とするものであるところ、賃貸借成立後にその建物につき所有権移転請求権保全の仮登記がされたことは、右賃貸借に影響を及ぼすものではないから、上告人において、所有権移転の本登記を経由する以前に、仮登記の存在を理由として所有権の取得を主張することをえず、したがつて、賃貸人の地位の取得を主張して、賃借人に対し、賃料の支払を請求しうるものではなく、上告人は、本件係争にかかる賃料債権を自ら取得したものではないと解すべきである。したがつて、上告人が所有権移転の本登記を経由する以前の賃料債権の取得を被上告人に対して主張することはできないものとする趣旨により、賃料債権の帰属の確認を求める上告人の本訴請求を排斥した原審の判断は正当であつて、その判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)